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2017年10月10日 (火)

月読の白拍子

 月読(つくよみ)とは、月を読むこと。月の満ち欠けで暦を読む。秋三ヶ月「文月、葉月、長月」の中月「葉月」の訪れる「仲秋の名月」と言われる十五夜。今年は10月4日で、月齢で満月(望月)にあたるのは、10月5日。たとえば、今日10月7日(土)の月齢は、16.9で居待月(いまちつき)。仲秋の名月の三日後の月を、万葉集の388番歌では、特に「白波(しらなみ)を伊予(いよ)に廻(めぐ)らし座待月(いまちつき)」と読んだ。陽も沈み、ゆっくり座って待っていると現れる月。その日の海は、大潮である。さらに388番歌は、「明石(あかし)の門(と)ゆは 夕(ゆう)されば 潮(しお)を満(み)たしめ」と続く。漆黒の空となり、輝く居待月に、満ち潮となった波は、白く光る。居待月は、干満の差が最も大きく波も大きい。さらに夜は明けて、この歌は、「明(あ)けされば 潮(しお)の干(ひ)しむ 潮騒(しおさい)の 波(なみ)を恐(かしこ)み」と続く。
 「淡路島の磯に隠れて居て、夜明けはいつかと寝ずに居て、夜を明かせば、海に続く滝の上の浅野にいる雉が、夜が明けたと鳴き騒ぐ。さあ子どもたち、あえて、漕ぎ出そう、海の庭も静かであるから。」と船出を決意して、この歌は終わる。388番歌は、「若宮年魚麻呂(わかみやのあゆまろ) 」の作とされている。彼は船頭なのだろうか?この歌い出しは、「海若者 霊寸物香(海の神というのは、くすしき霊験な香りを持っているものだ)」と海を神として讃えて始まる。
 月を神として、その清らかな光を賛美して、神島から船出をする万葉集3599番は、遣新羅使の歌である。
「月読(つくよ)みの 光(ひかり)を清(きよ)み 神島(かみしま)の 磯(いそ)みの浦(うら)ゆ 船出(ふなで)す我(わ)れは」
 船出の歌は、後にかの有名な能の「高砂」として、現在でも祝言に歌われれる。
「高砂やこの浦船に帆をあげて、この浦船に帆をあげて、月もろともに、出で汐の波の淡路の嶋影や。遠く鳴尾の沖過ぎて、はや住ノ江に 着きにけり。早住ノ江に着きにけり」
 生命を海と月、そして星に委ねて船出をする万葉時代の人々。
 
 白村江の戦いに敗れ、百済の徴兵もなくなり、朝貢の時代も、遣隋使、遣唐使の時代も終わり、いつしか、航海の時代は、消えてゆく。平安初期、防人の廃止は、先送りにされたが、彼らの歌もまた万葉集のみに残されることとなった。
 
 仲秋の名月のお月見(観月)は、夜空を仰ぎ見て月そのものを観るのではなく、水や池に映る月を歌に詠むことを風流とするようになった。さらに、万葉集以降、「星」を詠むことは、「忌むこと」とされ、実質上の言論統制が敷かれた。
 月を読み、星の動きを巧みに操り、船出をする人々を、語る人(歴史家)は、少ない。
 船に乗る男たちを目指し、小舟を漕ぐ一人の女性と、その小舟から歌を歌う女性。この二人で組みを成す女性たちを「遊女」と言った。船を波止場に誘い、今宵の宿へ案内する。宿には女将(おかみ)がおり、その下で働く飯炊き女たちがいた。彼女たち全員が、遊女という労働組合であった。遊女の歌は、「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)」に残されている。
 海の戦いに登場した水軍もいる。元寇で活躍した松浦党、壇ノ浦の戦いの平氏水軍、源義経に加勢した河野水軍、渡辺水軍、熊野水軍。戦国時代に活躍する村上水軍、九鬼水軍。13世紀から16世紀の倭寇、江戸初期からの朱印船など。
 1960年代まで、「家船」と呼ばれる水上生活者たちが九州、瀬戸内海、東京にもいた。
 「月読の神」は、太陽の神(天照大神)に対して、陰影を支配する「裏の神」の存在となっていった。
 夜が更け、月齢を読み、潮の満ち引きを知る。今夜は船出だと、船頭が決める。刻々と動く星を読みながら、目指す地に向かう。命と引き換えに自由に海を渡る者。陸上の為政者は、彼らを縛ることはできなかった。また縛られた世界から逃げ出す人々の住む世界でもあった。
 星の神は、日本で語られることは少ない。しかし、「大将軍」という神は、太白星(金星)の神だった。それが、次第に陰陽道に取り入れられ、「方違えの神」とされた。「この神がいる方向は凶」と言われ、畏怖され、「祓われる神」となった。今日、祓われ終わった大将軍の像が、京都の一条の大将軍八神社に80体収められている。
 大阪天満宮の「大将軍社」という社には、星を祀った形跡がある。7月25日、天神祭の最後に、船渡業が始まり、奉納花火でその賑わいは頂点を迎える。その光景をみていると、大将軍という星の神は、軍を率いる(将軍)船を守るいくさの神、という海に生きる人々の神に思える。

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